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スタチンによる有効なLDLコレステロール低下療法へのナイアシン追加は心血管系疾患ハイリスク患者の血管イベントを抑制せず,有害事象が有意に増加(HPS2-THRIVE試験)

Randomized Placebo-Controlled Trial of ER Niacin and Laropiprant in 25,763 Patients with Pre-Existing Cardiovascular Disease (HPS2-THRIVE)

スタチンによる有効なLDLコレステロール低下療法へのナイアシン追加は心血管系疾患ハイリスク患者の血管イベントを抑制せず,有害事象が有意に増加(HPS2-THRIVE試験)

 ニコチン酸系脂質異常症治療薬として知られるナイアシンの徐放製剤とlaropiprant(プロスタグランジンDP1拮抗薬で,ナイアシンの代表的副作用である顔面紅潮を抑制する)を使った群は,プラセボ群と比較して主要血管イベントを抑制せず,かえって有害事象が有意に増加することが大規模臨床試験で判明した。英国・オックスフォード大学のJane Margaret Armitage氏が報告した。

 対象は,6カ国245施設から登録された心筋梗塞,虚血性脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA),末梢動脈疾患,その他の冠動脈疾患を伴う糖尿病などの既往歴のある25,673人で,徐放性ナイアシン/laropiprant(LRPT)群(12,838人)とプラセボ群(12,835人)に無作為に割り付けられた。この割り付けに先立ち,全例にシンバスタチン40mg(±エゼチミブ)投与によるLDLコレステロール低下療法が実施され,良好なコントロールが得られていた。さらに全例に徐放性ナイアシンとlaropiprantを投与してコンプライアンスを確認したところ,平均値は78%だった。

 一次エンドポイントは主要血管イベントで,主要冠動脈イベント(非致死的心筋梗塞または冠動脈死),非致死的または致死的脳卒中(クモ膜下出血を含む),冠動脈または非冠動脈の血行再建術(下肢切断を含む)のうちいずれかの初発。一次エンドポイントは,徐放性ナイアシン/LRPT群とプラセボ群の間に有意差はなく(15.0% vs 14.5%,p=0.29),スタチンをベースとした有効なLDLコレステロール低下療法に徐放性ナイアシン/LRPTを加えても,有意なリスク低下は得られなかった。二次エンドポイントでは,徐放性ナイアシン/LRPT群の血行再建術の実施は有意に少なかった(6.3% vs 7.0%,p=0.03)。重篤な有害事象は徐放性ナイアシン/LRPT群の全ての項目で有意に多かった。

 Armitage氏は,今回の結果はこれまでのナイアシンを対象とした試験の結果と一貫性が見られると述べ,心血管イベントの抑制に徐放性ナイアシンが果たす役割について見直さなければならない,と報告を締めくくった。また同氏は,“Niacin has been used for many years in the belief that it would help patients and prevent heart attacks and stroke, but we now know that its adverse side effects outweigh the benefits when used with current treatments”ともコメントしている。(松田隆志・医学ライター)


■試験の概要

対象
心筋梗塞,虚血性脳卒中またはTIA,末梢動脈疾患, その他の冠動脈疾患を伴う糖尿病などの既往歴のある25,673人
・50~80歳

方法

国際多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験
 ・徐放性ナイアシン/LPRT群:12,838人
              (徐放性ナイアシン2g/日とlaropiprant 40mg/日を経口投与)
 ・プラセボ群:12,835人

※すべての患者は,無作為化に先立つ導入期間に,シンバスタチン40mg(±エゼチミブ)によるLDLコレステロール低下療法(目標総コレステロール値135mg/dL)を行い,徐放性ナイアシン/LPRT(各々2g/日,40mg/日)を1カ月投与してその服薬コンプライアンスも検討された。

追跡期間(中央値)
3.9年

結果


 

徐放性ナイアシン/
LRPT群

  プラセボ群  

リスク比

(95%信頼区間)
 p値 

<一次エンドポイント>        
主要血管イベント(主要冠動脈イベント+全脳卒中+全血行再建術)
  14.5 15.0 0.96
(0.90~1.03)
0.29

<二次エンドポイント>        
 主要冠動脈イベント  5.2  5.4

 0.96
(0.87~1.07)

 0.51
  非致死的心筋梗塞  3.1  3.4

 0.93
(0.82~1.07)

 0.33
  冠動脈死  2.4  2.3  1.04
(0.89~1.22)
 0.63
 全脳卒中  3.9  3.9  1.00
(0.88~1.13)
 0.56
  虚血性脳卒中  3.0  3.2

 0.94
(0.82~1.08)

 0.37
  出血性脳卒中  0.9  0.7  1.28
(0.97~1.69)
 0.08
 全血行再建術  6.3  7.0  0.90
(0.82~0.99)
 0.03
  冠動脈血行再建術  4.6  5.2  0.89
(0.80~0.99)
 0.04
  非冠動脈血行再建術  1.8  2.0  0.92
(0.77~1.09)
 0.33

<重篤な有害事象>
糖尿病合併症* 11.1 7.5 1.55
(1.34~1.78)
<0.0001
糖尿病の新規発症** 9.1 7.3 1.27
(1.14~1.41)
<0.0001
感染症 8.0 6.6 1.22
(1.12~1.34)
<0.0001
胃腸障害 4.8 3.8 1.28
(1.13~1.44)
<0.0001
筋骨格障害 3.7 3.0 1.26
(1.10~1.44)
0.0008
出血 2.5 1.9 1.38
(1.17~1.62)
0.0002
顔面紅潮などを含む
皮膚症状
0.7 0.4 1.67
(1.20~2.34)
0.0026

<4年後の脂質値の変化>
徐放性ナイアシン/LPRT群で
 ・LDLコレステロール:7mg/dL低下
 ・トリグリセライド:31mg/dL低下
 ・HDLコレステロール:6mg/dL上昇

*無作為化時点で糖尿病ではない患者8,299人に対する割合
**無作為化時点で糖尿病の患者17,374人に対する割合
 

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